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HDR 社

BIM/CIM を駆使した設計とワークフローで、ロサンゼルス国際空港の全自動無人運転車両プロジェクトの精度を高め、コラボレーションを強化

ユーザー事例

画像提供:Los Angeles World Airports

HDR 社は、米国最大級の空港用全自動無人運転車両の設計プロジェクトに、効率的な 3D ワークフローと複数分野のデータを統合したモデルを使用することで、土木設計と建築設計のワークフローを連携させています

大規模な空港の建設プロジェクトは複雑です。特にロサンゼルス国際空港(LAX)は、利用者数が米国で第 2 位、世界で第 3 位の非常に大きな空港のため、建設プロジェクトの複雑さもトップクラスとなります。

世界中からこの空港に流れ込む旅客の数は増え続けています。そこで空港の運営組織である Los Angeles World Airports(LAWA)は 2017 年に、最新の全自動無人運転車両(APM)システムの設計・施工計画を発表しました。

この APM は、年間で最大 8,700 万人の旅客を運搬することが見込まれています。全長約 3.6 キロメートルの高架式鉄道が 5 つの駅を通り、空港中央ターミナル エリアと総合レンタカー施設をつなぎます。2023 年の運行開始後は、長距離バスやライト レール(都市鉄道)にも接続し、乗り換え可能になる予定です。

20 億ドルという工費は、米国で現在進行中の空港建設プロジェクトの中でも最大級です。

高い技術レベルと厳しい設計基準が要求されるプロジェクト

HDR 社は、エンジニアリング、建築設計、環境整備、施工のサービス プロバイダーです。このプロジェクトでは 37 社の設計会社で構成されるチームを統率しています。チームに含まれる設計会社は、世界各地の 5 つのタイム ゾーンに拠点を構え、さまざまな分野を専門としています。この大きなチームが 1 つとなって、LAWA 社の APM プロジェクトに取り組んでいます。

LAWA 社から求められる高い技術レベルと設計基準を満たすためには、設計チーム全体でシームレスに調整を行う必要があります。「APM プロジェクトでは、全セグメントにわたって詳細度レベル(LOD)300 のモデルを作成することが求められました」と、HDR 社でプロジェクトのデジタル設計部門責任者を務める Cameron Schaefer 氏は話します。

画像提供: Los Angeles World Airports

この APM プロジェクトは、米国最大規模の BIM/CIM プロジェクトで、180 以上の設計モデルが作成され、300 人以上の BIM/CIM 設計者がその作成・保守に携わっています。

設計には、軌道、駅、エレベーターとエスカレーター、利用客用の高架式歩道(各駅と空港ターミナルを結ぶ動く歩道付き)、駐車場施設、道路や地形の改良、APM システムの保守・運用施設や車両保管施設が含まれます。

水平型と垂直型のチームを BIM/CIM で 1 つに

柔軟なソリューションが必要と判断した HDR 社は、Autodesk BIM 360 をプロジェクトに採用し、さらにモデルの調整とデータ管理用に BIM モジュールをいくつか追加しました。「大規模なチームを管理し、調整や情報共有を行いながら、関係者全員が最新状況を把握できる状態を保つ必要がありました。水平型と垂直型のモデルを 1 つの共有モデルに統合することで、異なるプラットフォーム間で情報共有したり、軌道モデルと駅モデルを使って土木設計チームと建築設計チームの作業を調整するなどが可能になりました」と Schaefer 氏は話します。

HDR 社のデリバリー ディレクター代理兼 LAWA 社の APM プロジェクト担当責任者を務める Jay Chiglo 氏はこのプロジェクトについて、「エンジニアリングに BIM/CIM を導入したプロジェクトとしては、 HDR が手がけた中で最大規模のものとなりました」と話します。

画像提供: Los Angeles World Airports

このプロジェクトでは、公共インフラ設備から駅の建物まで 180 以上の設計モデルを頻繁に更新しながら、3D の干渉チェック、4D のフェーズ作成やビジュアライゼーション、5D の積算などを行っています。

多分野間で連携するアプローチによって、チームや関係者のコミュニケーションが改善されたほか、施工性に関する問題を施工前の設計段階で洗い出したり、複数の設計プラットフォーム (Civil 3D、InfraWorks、Revit、Inventor) 間で細かく設計を調整することができました。

BIM 360 でプロジェクトを「軌道」に乗せる

BIM 360 は、プロジェクト全体を通じて進捗状況を追跡し、あらゆるファイルを更新するうえで役立っています。「私たちはリアルタイムで設計を行うためのプラットフォームとして BIM 360 を導入し、プロジェクトに含まれるすべての駅の設計を行いました。 BIM 360 のおかげでコミュニケーションが効率的になりました。調整作業や設計上の問題への対応作業にはドキュメント管理モジュールを使い、設計者に問題を割り当てて追跡し、そこからレポートを作成しました」と、HDR の BIM 副マネージャーを務める Pedram Oskouie 氏は話します。

画像提供: Los Angeles World Airports

Schaefer 氏もこう話します。「週に 1 回のペースで施工パートナーとモデルを共有しつつ、コミュニケーションや設計意図の伝達に使用しました」

「軌道が道路、歩道、公共設備などとどのように融合するかが分からなければ、施設を建設することはできません」と Chiglo 氏は話します。「BIM/CIM は、あらゆる作業をひとつに統合するうえで、大いに役立ちました。厳しいスケジュールに沿って急ピッチでプロジェクトを進める必要がある中で、これはきわめて重要でした」

直線橋の設計ワークフローを「橋渡し」

コラボレーションでは、共通のデータ環境で 1 つのモデルを共有しながら、チームがひとつになることが重要です。プロジェクト チームには、異なる複数のプラットフォームで作成された設計を 1 つのモデルに統合するための効率的なプロセスが必要でした。

この課題を解決したのはオートデスクの InfraWorks、Inventor、Civil 3D、 Revit です。これらの強力なツールが、新設する高架橋式軌道の設計ワークフローを支えました。この設計プロセス全体を通じて、 HDR はオートデスク チームと連携しながら、ワークフローを必要に応じて改善しました。

オートデスクの土木構造チーム シニア プロダクト マネージャーを務める Ara Ashikian は、当時をこう振り返ります。「オートデスクは、Civil 3D の線形と、対応する InfraWorks モデルとの間の精度と整合性を向上させる新機能を実装しました。この機能が HDR 社のプロジェクトで必要になったため、私たちは非常に詳細なモデルをデータ レベルまで戻して、この強化機能を活用しました。この機能がなければ、プロジェクト チームは高架橋式軌道のモデルをすべて作り直す必要があったでしょう。

こうした反復を何度も繰り返し、 HDR 社もオートデスクもデータの正確性に自信をもてるようになりました。既にほとんどの要素に対応できていることは分かっていました。あとは設計チームからプロジェクトに上がってくる残りの設計を待つだけでした。プロジェクトはバランスのもとに成り立っています」

画像提供: Los Angeles World Airports

このワークフローによって、 Civil 3D と Revit の間の溝を埋めることができました。

Schaefer 氏はこう話します。「InfraWorks をメイン プラットフォームにすることで、両者の溝を埋めることができます。橋梁のモデリング ワークフローでは、設計をプロジェクトのライフサイクル全体に活かせることが、強力な利点となりました。たとえば、 Civil 3D ですべてを設計した軌道の線形を InfraWorks に取り込むことで、軌道の線形と動的に連携する橋梁を構築できます。最終的にはそのモデルを Revit に読み込むことで、駅の建築設計に使用できます」

この方法なら、 Revit で静的モデルを使用する場合よりも時間を節約できます。静的モデルの場合は、線形を変更したり、 Civil 3D のデータを更新したりするたびに、毎回反復する必要があります。

直線橋のモデリングに適用されたオートデスクの新しいワークフローなら、プロジェクト チームはモデルを調整しながら問題を追跡したり、動的な Power BI レポート作成機能で関係者と最新情報を共有したりできます。

軌道設計に橋梁設計ワークフローを活用

「InfraWorks の 3D モデルを使って点群情報を適用できる機能は、とても便利でした」と、 HDR の軌道 BIM リーダーを務める Andrew Chung 氏は話します。

「作成した設計と実際の世界との相関関係を理解できます。点群データを取得して 3D モデルに取り込むと、非常に高精度な情報が簡単に手に入ります」

画像提供: Los Angeles World Airports

新しい橋梁設計ワークフローを用いると、軌道構造チームと建築設計チームの調整やコラボレーションが強化され、このように複雑な事業に付きものの困難な課題にも適切に対処できます。

Chung 氏は当時をこう振り返ります。「変更や構造の追加があっても、どちらのチームも非常にすばやくモデルを作成できます。 Revit 空間では、この直線橋のワークフローのおかげで、1 日で構造の配置を調整し、立面図が正確か、各分野間の座標系が一致するかどうかを確認できました。」

自動化を推進して複雑なアイデアを伝達

異なる分野のチーム間で調整が必要なことと、 APM の軌道や橋梁の設計では動的かつ正確に情報を更新する必要があることを考慮して、オートデスクは意図的に柔軟なシステムを開発しました。

「カギとなるのはコミュニケーション、必要不可欠なのは自動化です」と、 Schaefer 氏は話します。

「このように非常に多くの人々が関わるプロジェクトでは当然、できるだけプロセスを自動化し、手作業を削減した方が良いです。私たちは、複雑なアイデアやワークフローを、米国内に散在する複数の関係者たちに効果的に伝える方法を見つけることができました。 BIM 360、モデルの調整、 Navisworks は、このプロジェクトを効果的に進めるうえで、非常に役に立ちました」

画像提供: Los Angeles World Airports

「最も重要なのは正確性です」と Ashikian は話します。「Civil 3D の線形、 Revit の建物、そしてすべての橋梁が、すべて正確に位置合わせされていることに自信を持てなくてはなりません」

「最終的にはデータを Revit と Navisworks に取り込むことで、正確に位置合わせされます。初期の設計から詳細設計までの一貫したワークフローと、精度、詳細度レベル、パラメーター値などのあらゆる要件によって、正確性が保証されます」

BIM/CIM で、未来のプロジェクトの時間も短縮

オートデスクは、この HDR 社のプロジェクトに現在進行形で携わることで、製品機能を拡張するための最適な方法を見出すことができたと、Ashikian は話します。

「たとえば私たちは、一般的なオブジェクトをすべて追加した後に、こう考えました。『これらのオブジェクトをもっとスマート化して、直観的な操作で自動配置できるようにするためには、どうすればよいだろう?製品にこの機能を追加して、ユーザーに提供する価値を高めるためには、どうすればいいだろう?』私たちは、 APM プロジェクトと HDR 社のため、さらには未来のプロジェクトのために、そうした取り組みを行いました」

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HDR 社は、このプロジェクトで限界に挑戦することで、イノベーションの機会を得ることができたと Schaefer 氏は話します。

「オートデスクのワークフローは、 APM プロジェクトに大きな効果をもたらしました。おかげで私たちは時間を無駄にすることなく、プロジェクトを進めることができました」そして今後は他のプロジェクトにも、この新しいワークフローを導入していくつもりだと Schaefer 氏は話します。

HDR 社は 2020 年 1 月以降、 Infrastructure Ontario と Metrolinx の技術アドバイザーとしてトロント市地下鉄オンタリオ線の 16 km にわたる新設プロジェクトに携わっています。そして同社はこのプロジェクトにも、オートデスクのワークフローを導入しています。