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マツダ株式会社
AUTODESK ALIAS 導入事例
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オートデスク製品の活用範囲を広げ、21 世紀のクルマづくりを追求
広島を拠点に、日本ならではの美意識をもってクルマづくりを手がける自動車メーカー「マツダ」。同社は 2020 年 1 月、創業からちょうど 100 周年を迎えた。マツダは数ある日本の自動車メーカーの中でも、とりわけ車好きの心をくすぐる名車―世界初の量産ロータリーエンジンを搭載したコスモスポーツ、ロードスター、RX-7 など、数々の「走り」に対する独自の美学を持ったクルマを世に送り出してきた。
21 世紀に入り、マツダのクルマづくりに対する思いは、留まることなくむしろ深まっているようだ。それは 2008 年に同社が掲げた「魂動(こどう)デザイン」にも端的にあらわれている。
マツダ本社 - Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
「魂動デザイン」とは、ドライバーとクルマの関係を、まるで愛馬と心を通わせるかのように、エモーショナルなものにするためのデザインフィロソフィーだ。クルマを「鉄の塊」ととらえるのではなく、そこに命を吹き込むための造形を追求する。このフィロソフィーを実現するためにより直感的なCADが必要とされるようになり、マ ツダ 社 内 で は「Autodesk® Alias®」をコンセプト段階だけで使うのではなく「Class A」で使用することを決めた。「Class A」とは、自動車デザインの最終データを作成するプロセスであり、金型に使用するためのデータとして形状の美しさを表すことはもちろん、製造要件をきちんと満たすことが必要となる工程だ。
車種リーダーとしてテーマから量産までをリードする立場で、様々なマツダのクルマづくりに携わってきた熊谷竜司氏は、Autodesk Alias を Class A の工程に導入することになった当時のことを振り返り、以下のように語る。
「Autodesk Alias」を使った作業を行う熊谷竜司氏
- Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
「魂動デザインを打ち立ててから約10年を経て新世代のクルマの第 1 弾として開発することになった〈MAZDA3〉は、魂動デザインをさらに深化させる必要がありました。僕らモデラーが必ずやらなければならないのは、生命感ある造形を創り出すということ。深化に伴い、自然と造形の難易度も高くなりました。より直感的な作業や感性に頼るところが大きくなっていったんですね。そこで、光と影を徹底的にコントロールした造形を行うツールとして、Autodesk Alias を Class A に導入しました。コンセプトデザイン創りのステージでは長く使っていましたが、検証を重ね、Class A にも十分に使用できると判断しました。特に、ビジュアライズ機能を活用した陰影の緻密なコントロールが直感的に操作できる点や、デザインチーム内でのコミュニケーションの取りやすさは、今まで使っていた CAD よりもはるかに優れていると思いました」
デザイナーが創造したコンセプトを、工業用粘土を使って立体化し理想の造形に近づけていくクレイモデル。実はマツダにとって、クレイモデラーの存在も非常に重要だ。クレイモデルとの親和性がきわめて高い Autodesk Alias をコンセプト段階だけではなくClass A 工程でも使うことにしたのは、自然の流れだったといえる。クレイモデルで特にこだわるのは、クルマのボディが反射した光をどのように美しく見せられるかというポイントだ。陰影の強弱までを Autodesk Alias で微調整することができるので、クレイモデルを完全にデジタルで再現できる。このようにデジタルモデルとクレイモデルを相互に行き来しながら、誰が見ても美しく感じられる形状へと造形が磨かれていくのだ。
Class A 工程に Autodesk Alias を採用した当時、現場に戸惑いはなかったのだろうか。
デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 熊谷竜司氏 - Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
「エンジニアからも金型を扱う工場側からも、イメージがしやすいと喜ばれました。デザイン部外の全員の思いを揃えるコミュニケーションツールとしても役立ちます。また設計が使用するCADとのデータ授受にも問題なく、今ではすべての Class A 業務で Autodesk Alias を使っています。チーフデザイナーが生産現場の皆さんに大画面でデザインコンセプトについて説明する場面でも『とてもわかりやすい』と好評です。役員へのレビューでもその場で『ここを変えてみて』と言われることがよくあるのですが、すぐに対応できるようになりました。以前はその課題を持ち帰って修正してから再レビューを行っていたので時間がかかっていました。新鮮な気持ちのまま全員でイメージを共有できるのでスピード感のあるデザイン検討が格段にやりやすくなりました」(熊谷氏)
“デジタルとフィジカル(クレイモデル)を相互に行き来しながらブラッシュアップしていく際の乖離が非常に減りました。その分、デザインの熟成に時間をかけられることが、Autodesk® Alias の最大の魅力だと思います”
—呉羽 博史 氏, マツダ株式会社 デザイン本部, デザインモデリングスタジオ 部長
そうした過程を経て、2018 年 11 月〈MAZDA3〉は世界初公開へ。20 年 4 月にはワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞。マツダとしては、2016 年のロードスターに続き 2 度目の受賞となった。
「Autodesk Alias に乗り換えてよかったことの中に、表現したい造形を創るのが非常に早くなったという点があります。大体2倍程度は早くなりました。以前の CAD では予測して作成を行い、造形の良し悪しの検証には別途設定が必要だったり、別の CAD へデータを変換したりと手間も時間もかかっていました。経験やノウハウは必要ですが Autodesk Alias はこれらが同時にできるため、ほぼ1回で終わります。その分、造形提案やエンジニアや工場とのコミュニケーションを増やしています。そういった内容の充実さを加味すると実は2倍どころではないかもしれません」(熊谷氏)
デザイン本部 デザインモデリングスタジオ デジタルデザイングループ 中村英樹氏 - Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
コンセプト段階から Class A 工程まで、すべてAutodesk Alias を活用していくことには、どんなメリットがあるのだろうか。マツダのクルマづくりに 30 年以上たずさわる中村英樹氏は以下のように語る。
「これまではコンセプト段階を担当するチーム、Class A を担当するチームと、開発ステージによってチームが分かれていた時期もあったのですが、そうすると当初の思いがステージが変わっていくときにつながりにくいという課題がありました。それをひとりの車種リーダーが一気通貫で始めからAutodesk Aliasを使って思いを形にしていくというやり方に変えていったことで、思いが伝わりやすくなったのではと感じています」
大画面を使って、生産現場のスタッフにデザインコンセプトを伝える - Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
実は、マツダではデザインコンセプトを正確に伝えるために、デザインにたずさわったメンバーが生産現場まで出向き、プレスされた鉄板までを確認する。一方の生産現場からは Autodesk Alias を使ったイメージ画像を工場の壁に大きく張り出したいとリクエストが来るのだそう。こうしてイメージをお互いに共有し、コミュニケーションを取ることで、デザイン意図が隅々まで伝わり、それが一台一台の実際のクルマの仕上がりにダイレクトに反映される。設計と生産にたずさわるすべてのメンバーのモチベーションの高さは、特筆すべきマツダの強みだと言えるだろう。
デザイン本部 デザインモデリングスタジオ 部長 呉羽博史氏 - Image Courtesy of Mazda Motor Corporation
「『魂』という形のないものを旗印に掲げた自動車メーカーは、世界中でマツダだけです。魂はフィロソフィとしては意思統一しにくいものですから。でも、そうであるからこそ心が震えるデザインを創り出すことができるとマツダは考えています」(呉羽博史部長)
とびきり柔軟な発想に基づくマツダのクルマづくり。次の 100 年に向けて、さらなる技術革新に対応しながら、進化を続けていくに違いない。